東京証券取引所グロース市場の上場廃止基準見直し
- htsujii
- 4 日前
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機関投資家のグロース市場誘致を企図:
東京証券取引所が、新興企業向け上場市場であるグロース市場区分における上場廃止基準を引き上げる改革案を示したことが話題となっています。機関投資家の同市場への参加を促すべく、「上場後10年経過時点で時価総額40億円」としていた従来基準を「上場後5年経過時点で時価総額100億円」とする方針が示されています。
公開された資料からは、新興企業の資金獲得に向けた市場形成を行う上で、投資に資する企業が一部に留まり、市場に参加する投資家層の拡大促進が難しい現状認識から、市場からの退出ルール見直しを通じて投資市場としての活性化を図りたい意向が伺えます。緩やかな株式上場要件の設定により、ベンチャーキャピタル等を通じた未公開企業の投資資金獲得には一定の成果を得た上で、次のステップに進む為の市場制度の見直しという考え方の様です。
グロース上場企業の公開時時価総額は近年格差が拡大:
これまでの同市場への上場株式の状況について、図1に過去10年間のグロース市場における新規上場株式の株式公開価格での時価総額の平均値と中央値の推移を示します。上場後年数は2025年3月末を基準とし、「1年後」区分の銘柄は2023年4月から2024年3月の間に上場した企業です。

上場企業数は「3年後」区分に該当する2021年4月から2022年3月の間が最大でしたが、時価総額は平均値、中央値共に時系列的に近年増加する傾向が見られます。
また「6年後」区分(2018年4月から2019年3月)以降は大型銘柄の上場が目立つ様になり、平均値と中央値の格差が広がりました。この格差は以降も継続し、直近では中央値は71億円と平均値の143億円の半分の水準に留まります。
実績では「5年100億円」目標は3割から4割が未達:
上に挙げた「見直し案」は、今後上場する企業が上場5年経過後に適用になる様です。この基準を現在上場する銘柄を対象に適用した分析を図2に示します。この図では、上場5年後の時価総額で100億円未満となった株式銘柄の数と、公開価格を基準とした株式保有による平均値上がり益の年率換算値を上場後年数区分毎に図示します。(なお、上場後5年未満の株式銘柄については、2025年3月末時点での時価総額と値上がり益年率換算利回りで示してあります。)

過去10年間に上場した株式銘柄のうち、上場5年後に時価総額100億円未満となった銘柄数は、各年度の上場企業数の概ね3割から4割を占めます。これら銘柄の年率換算値上がり益利回りは、概ねマイナスの水準に留まります。これは5年後時価総額100億円を超えた銘柄の年率換算値上がり益利回りが、9%から17%超である事と対照的です。
魅力的な市場形成に向けた上場企業への期待:
グロース市場が新興企業を対象とした上場市場であることから、多くの企業が株式公開時では時価総額100億円に満たない規模であり、上場後5年で時価総額が100億円に達すれば、投資利回りとしてはそれほど悪い結果ではありません。
一方、市場に求められる価格発見機能や流動性提供機能を果たす上で、多数の投資家が参加する市場形成が必要となる為、時価総額規模で一定の退出ルールを設ける事はやむを得ない判断と思われます。
また、既存の上場銘柄による分析によれば、上場銘柄の概ね3割から4割が対象となり得るなど影響範囲が広く、また株式公開時の時価総額中央値より高い目標を課すことで、時価総額基準でありつつも投資リターンに関連した退出ルールになっています。
株式投資家にリターン提供が出来なければ存続出来ないルールとしたことで、投資リターン創出が上場企業の責務である点を明確にしたことは、真摯に投資価値提供に取り組む企業と、投資機会発掘に努力する投資家にとって朗報ではないでしょうか。 (データ出典:日本取引所、他より作成。)