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投資家の不満と期待される企業対応

  • htsujii
  • 9月24日
  • 読了時間: 4分

株式市場は堅調な推移を続けていますが、その背景には東京証券取引所による市場制度改革や政策保有株の縮減方針を受けた企業価値向上の取り組み、さらに機関投資家との建設的な対話強化への期待が影響していると考えられます。その様な中、投資家が考える上場企業への課題認識は考慮に値する話題かと思います。


一般社団法人生命保険協会は、「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」を毎年集計し、最新版を2025年4月に公表しました。こちらの一部を抜粋し、機関投資家の現状認識を見てゆきたいと思います。なお、同調査は「ガバナンス」「株主還元」「投資家との対話」「議決権行使」「ESG活動」「人的資本経営」など幅広いテーマを対象としていますが、ここでは「投資家との対話」に関する設問に絞って取り上げます。



重視する経営指標の違い

図1では、中期経営計画の経営目標指標について、投資家の重要度認識と企業との重要度認識差を示します。右上の領域には投資家が重視するにもかかわらず企業の関心が相対的に低い指標が集まり、左下の領域には投資家は重視しないが企業は重視する指標が集まります。ここに両者の「ずれ」が表れます。


企業と投資家の経営指標の重要度認識差異

前者には ROE(a)、ROIC(h)、FCF(i)、総還元性向(m)、資本コスト(q) などが含まれます。これらは投資家が強く重視するにもかかわらず、企業の取り組みが不足していることを示しています。


一方後者は 売上高利益率(c)、利益額・利益成長(e)、配当性向(j) などが該当します。企業は投資家以上にこれら指標を重視し、投資家の期待に沿えていないことが示されます。つまり、企業が力を入れるポイントと投資家が評価するポイントには明確なギャップがある様です。(その他指標:b: ROA(総資本利益率), f: 市場占有率(シェア)、g: 経済付加価値(EVA®)、k: 株主資本配当率(DOE)、l: 配当総額または1株当たり配当額、n: 配当利回り、o: 自己資本比率、p: D/Eレシオ)



資本効率性への懸念

この結果から、少なくとも調査時点(2024年10月)では、投資家は成長性よりも資本効率や投資効率を重視していたことがわかります。図2はその具体的な認識差を示しています。


資本・手元流動性・ROEの過不足認識の企業・投資家間差異

自己資本や手元資金の水準について、企業は「適正」と認識する割合が多い一方、投資家は「余裕がある」とみています。また、資本コストに対する実現ROEについて、多くの企業は「上回っている」と答えましたが、同意した投資家はごく少数にとどまりました。


企業は「財務健全性」や「余裕資金の確保」に重きを置く傾向がありますが、投資家はむしろ資本効率に着目しており、資本コストに見合うROEを実現出来ていない事から、自己資本や手元資金の厚みは過剰であり、投資効率低下の要因と危惧している事が伺えます。



経営改善へのコミットメント

期待に沿わない結果に陥った上場企業に対し、投資家は株式を売却するか、あるいは改善を期待して対話を続けるかを選択します。その際に重要となるのが、企業による情報開示と経営層の姿勢です。


図3は投資家が対話上の課題と感じている点と、企業側の自己認識との差異を示しています。右上の領域には投資家が課題視するにもかかわらず企業が認識不足の項目が集まります。具体的には「経営トップをはじめとする経営層が対話に関与できていない事」(b)、「対話内容の経営層での共有化が不足」(c)、『対話の材料となる情報の開示が不十分』(d)などが該当し、投資家は経営層自らの明確なコミットメントを強く求めています。


企業と投資家の対話に関する体制取り組み課題の認識差異

一方で、「対話に割けるリソース・人材が不足」(a)「対話担当者のスキル・知識の向上」(e) は、投資家側ではそれほど問題視されていません。つまり、IR部門の人員数や予算規模よりも、経営層自らがコミットし、投資家の視点を反映した説明責任を果たせるかどうかが問われている様です。(その他事項:f: 投資家の対話や議決権方針への理解度向上)


投資家の不満に応える

これら結果から上場企業は、投資家との間で「注力すべき指標」と「実際の努力の方向性」が一致しておらず、資本効率改善に対し投資家は強い不満を感じている事を認識すべきと考えられます。投資家が指摘する改善点は、経営層の関与が不可欠であり、投資家意見の共有、経営方針への反映、及び改善実現へのコミットメントといった、投資家の働きかけによる経営改善が機能する事を示す事が求められています。


投資家の期待と認識を真摯に受け止め、情報開示の質的向上と企業価値向上に取り組むことが、投資家ひいては市場評価の向上に有効な対応となるでしょう。

© 2025 Yusoku Advisor Godo Kaisha

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