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妥当な株価評価獲得に向けた市場との付き合い方

 昨年より進められてきた、東京証券取引所の上場市場区分の新制度が、今月より運営開始されました。検討と実施の過程で大いに議論のあった新市場制度で、海外投資家を主眼に置いたプライム市場の大幅な変革が期待されましたが、当初の期待より穏当な変化との評価が、メディアにより報じられています。ただし、今後も各上場企業には、市場基準の適合を求めるとの事であり、各上場企業がそれぞれに投資家に対し魅力的な投資対象であり続ける事が要件である事が明確になった点で、市場活性化に向け一歩前進したと言って良いのでは無いかと思います。


 今回の施策は、時価総額が数千億円となる様な大型株企業より、数百億円の時価総額に留まる企業への影響が大きく、これら企業の投資家対応や株式上場制度へ向き合う姿勢、ひいては経営方針に至るまで再考を促し、市場適合を求める様です。東京証券取引所へ「上場維持基準の適合に向けた計画書」提出を求められた企業はもとより、小型株に区分される上場企業全般で、真摯な対応が必要な事項だと思われます。

 昨今の、地政学的な要因による市場変動性または事業環境の変化、株式持ち合い構造の消失による相対的な流動株式の増加と投資家発言力の増加、株式市場水準の下落の一方での株主還元強化の要求、新規上場株式の隆盛の一方で既存小型株評価の低迷など、投資家の獲得・維持に向けた取り組みには、有意かつ本質的な対応が求められると思われます。


 下のグラフ(図1)は、時価総額が凡そ80億円から500億円までの上場企業に付き、来季予想ROAと株価が示唆する利益成長率を、それぞれの業種別平均値との差を取り図示したものです。業種平均を上回る予想ROAの大きさに準じて株価が折り込む長期利益成長率が増加している事が確認出来ます。同じ予想ROAの企業間でも、近似線の上下に一定の幅で異なる水準の期待利益成長率が株価を通じて示唆される事から、同様の業績期待値に対し株価形成の巧拙の差が存在する様です。


 上の簡単な分析でも見られる様に、株式市場は一定の合理性をもって各社株式の評価を行っていると考えて良いと思われます。上記「計画書」提出企業を含めた上場各社にとっては、妥当な株式市場評価獲得を目指す上で、ROAの向上を実現する競争優位性、利益成長性の強化を進め、業種水準以上の業績伸長に取り組む事が、まずは投資家に向けて発せられるべきメッセージとなるでしょう。その中で、経営資源の有効活用と効果極大化や、事業成長と事業構成の見直し、資本コスト適正化といった経営規律も重要なアピールポイントと考えて良いでしょう。


 上場企業の情報開示目標が、適切な期待値の形成による妥当な市場価格形成とすると、上のグラフの様に予想ROAに対し企業間で異なる期待利益成長率が示唆される事は、情報開示の巧拙の差と見る事も出来ますが、発行会社と株主の間の「情報の非対称性」といった構造的な事象の影響かもしれません。特に証券アナリストや機関投資家といった、投資専門家の参加が少なめな市場部門に上場する事の多い小型株では(図2参照)、市場の価格発見機能に対し、自社株買いを通じて機能不全を示唆し市場機能を補完する事は、上場企業としての市場における果たすべき一つの機能なのかもしれません。こうした対応は「株主還元」の文脈で語られる事が多く「内部資源の喪失」と捉えられ勝ちですが、むしろ株式発行企業にとっては後々積極的な上場株式の活用につなげる為の「先行投資機会」として、株主の要求など無くとも積極的に取り組む方が、将来的なメリットがあろうかと考えられます。

(データ出典:東京証券取引所他)



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