先日プライム市場に上場する製造業企業の、投資家説明会に参加する機会がありました。当該事業分野では世界で3本の指に入る、時価総額も数百億円規模の企業であり、説明会も活発な質疑応答もあり盛況だった様です。ただし投資家の「背中を押す」という点については、十分なアピールにはならなかった様に感じました。
当日の説明は中期経営計画に基づく、経営改善を通じた業績向上をアピールする内容でした。大筋としては、既存事業分野での営業利益率の向上と、新規事業分野での収益拡大により2027年3月末には、営業利益率で7%以上、ROEで6%以上を達成し、その後2030年3月期にはROE10%以上を目指す、という事です。製造業企業らしい手堅い計画の様に思われましたが、その内訳を見ると投資家が飛びつく様な内容では無い事が分かります。
同社の2014年3月期以降の売上高推移を図1に示します。2027年3月期に目標とする売上高も公表されて、右肩上がりのグラフとなっていますが、
1)直近の業績成長は「コロナ」期の落ち込み回復の範囲と思われる事、
2)今後3年間の全社売上高成長率は年平均4.1%に留まる事、
3)製品売上は減少を見込む中での、中古品・消耗品販売成長の現実性、
4)(恐らく企業買収などにより)売上急増を見込む新規事業見通しの確度、
と成長の筋書きが不明な中での予測である印象を否めませんでした。
また、図2に営業利益率の見込みも図示しますが、
5)成長性の低下した事業環境下での利益率改善、
6)新規事業の黒字化と規模拡大の両立、
といったチャレンジに取り組むとの事でした。投資家が同社株式への投資を前向きに検討するには、これら施策の成功を腹落ちさせるロジックの追加提示が必要だったと思います。
一方、資本効率性が低さが気になりましたので、プライム上場の3月決算同業企業(製造業531社、うち機械79社)の決算短信集計による業界平均値との比較を図3に示します。(期間平均を行わず)期末数値により単純計算した比率ですが、大いに改善余地がある様です。
(出典:決算短信集計、東京証券取引所)
利益率の改善は今後取り組む旨の説明が有りましたが、資本効率性の向上は特に付言されませんでした。しかし(実現性の高い)資産効率性の向上を目指した資産活用や資本構成の見直し施策を説明する事の方が、(不確定性の高い)売上増加や利益率向上策を訴える事より、聞き手の期待に応えられたのでは無いでしょうか。