年初より好調な株式市場も潮目の変化が感じられる様になりました。中でも大型株式の好調と裏腹に不調だった、東証グロース市場上場企業を含めた新興企業株の価格下落が目立ちます。少なからぬ数の企業で、事態改善が懸案であると思いますが、対処に当たっては単に市場水準の変化と捉えず、新興企業特有の課題の存在を意識すべきかと思われます。
図1では、東証グロース上場企業を上場年数毎に分け、それぞれの企業数を棒グラフに、グロース市場内での売買金額及び時価総額比率の累積分布を折れ線グラフに示します。
まず上場企業数は、2年目の企業数が最多で、以降は減少に転じます。また投資活動も上場5年目までの企業に集中し、時価総額で約75%、売買金額で約87%を占めます。東証プライム市場と異なり、グロース市場上場銘柄を対象とした指数取引は一般的では無い事から、時価総額と売買代金の分布は、投資家の個別銘柄の選好度を反映した結果と考えられます。
つまり、上場年数が長くなる程、投資家の関心は一般的に低くなる、という事になります。
これは東証プライムやスタンダードの様な、より大きな企業が参加する市場への登竜門としての、グロース市場への一般的な認識に照らせば違和感は無いですが、投資家の獲得・増加を期待するグロース上場企業には、大いに懸念すべき点です。(上場企業数は2024年3月末、時価総額は調査時点、売買金額は2024年3月の1ヶ月間の出来高に対し、調査時点の株価を掛けた概算値。シェアはグロース市場全体に対する当該企業株式の、売買金額または時価総額の相対規模。)
この懸念の説明として図2を示します。グロース上場企業を上場年数で大きく分け、それぞれの区分が占める売買代金シェアと、その区分における企業当りの平均売買代金シェアを示します。売買代金の約46%は上場0年目(1年未満)の企業が占め、その後約42%を1年目から5年目の企業が占めます。それぞれの区分に属する企業数で売買代金シェアを割った結果は、上場0年目に各社が平均的に獲得出来た売買代金シェアは、1年目以降は約5分の1の水準、その後更にその半分の水準で分布します。上場企業の投資家獲得努力の成果を売買金額で測る場合、上場初年度以降は大きな生産性低下が懸念されます。
この様な傾向の一方、多くのグロース上場企業では投資家マーケティングに本腰を入れて取り組む時期は、大幅な株価下落を経た後である事が多い様に思われます。特に株式上場直後の「ハネムーン期間」は、特に努力を要さずとも市場の注目に浴す事により、「投資家獲得」への課題意識の一時的な希薄化も無理もありません。しかし「宴の後」では、VC等の大株主による株式売却で流動株式が株価圧力となり、株価の下落傾向がストックオプション等従業員報酬制度の有効性を損なわせ、市場の関心は新たな上場企業に向かう等、逆風下からの取り組み開始となります。
この状況対応の為「担当者」採用を考える事は道理ですが、現状改善からのスタートですので、運営担当者の補強が有効な対応策となるかは疑問です。事態の困難を考慮すると、人材獲得すら困難と予想されます。実効的な対応としては、「状況改善」の目処を付ける事と、投資家情報発信の運営を分けて対処を講ずる必要がありそうです。