投資家マーケティング評価の定量化
- htsujii
- 5月26日
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企業が株式を上場する背景には、将来的な資本調達や社会的認知の獲得など、さまざまなメリットへの期待があります。一方で、近年の投資家行動の変化や市場制度の見直しを受けて、上場企業に対する期待や要請は一層高度化しています。
スチュワードシップ・コードの導入・普及により、投資家は投資先企業に対して積極的に関与する姿勢を強めています。また、コーポレートガバナンス・コードの改訂を通じて、上場企業には投資家との建設的な対話姿勢が求められるようになりました。さらに、東京証券取引所は近年の市場制度改革の中で、上場廃止基準の厳格化を進める一方で、上場企業に対しては継続的に投資家の関心と投資意欲を喚起することを求める姿勢を明確にしています。
こうした制度的要請に対する企業の対応は、株価として市場評価が日々示され、取り組みの巧拙に応じて企業間に評価の「格差」が生じることが予想されます。しかしその格差の大きさがどれほどの大きさであるかについては、一般的な認識は不明確な状態に留まると思います。これは、企業規模や業種の違い、また時期的要因や評価指標の定性・定量両面にまたがる複雑性などから、企業間の横並びでの比較が困難な為と考えられます。それでもなお、企業が自社の取り組みを強化していく上では、何らかのかたちで市場からの評価をフィードバックすることが不可欠です。
その一例として、東京証券取引所に上場する企業のうち、卸売業および金融業を除き、上場から3年以上が経過し一定の流動性を持つ1,849社を対象に、株価および売買代金の変化率分布を示します。図1は、今年4月末までの6ヶ月間における株価変化率を銘柄区分毎に表したものです。上位層と下位層の間には顕著な差が見られ、最上位と最下位の変化率の開きが非常に大きいことがわかります。加えて、全体の平均値(0.9%)を境に上位・下位の平均を比較すると、それぞれ20.6%、-12.9%と、明確な格差が確認されます。

図2では、同様に日次平均売買代金の変化率を分析した結果を示しています。こちらでは格差がさらに大きく、全体平均(15.3%)を境に、上位層の平均が90.8%、下位層が-16.6%と、株価以上の差異が発生しています。

市場の動向は多くの要因に影響されるため、これらの結果が必ずしも投資家マーケティングの巧拙のみを反映しているとは言えません。しかし、それでも企業間でこれほど大きな格差が生じている事実は看過できず、企業は自らが上位層に位置づけられるよう、市場評価を積極的に取り入れ、継続的な改善に取り組む姿勢が重要と考えられます。
一方で、例示した株価や売買代金の変化率は、企業や株式の現時点の状況を必ずしも十分に説明するものではありません。したがって、これらは指標としては参照は出来ても、施策改善への示唆が不十分な為、マーケティング活動の改善指標としては有効性が限られます。
図3には、当社が開発した上場企業のポジショニングマップを示します。これは、投資家マーケティングの取り組みを有意にかつ定量的に評価するために設計されており、市場データに基づき作成されています。本指標群は、企業によるマーケティング施策の効果と整合性を持つよう設計されており、改善活動を定量的に支援する役割を果たします。

一般に株式投資家は最良の投資機会を求めて、上場企業間の相対比較に基づき投資行動を取ります。したがって、企業にとっての市場評価の向上とは、すなわち相対的な評価の向上を意味します。そのためにも、自社と比較対象企業の相対的な位置付けを把握し、劣位を縮め優位を伸ばす対応をとることが極めて有益です。このような情報の活用により、上場企業は他社と比較してより効果的な投資家マーケティングの実施が可能になると考えられます。