top of page

投資家マーケティング改善は多くの企業の共有課題

一般にIR(アイアール)活動と称される投資家マーケティング活動は、その成果評価や結果帰属特定の難しさから、課題の存在は大まかに認識されても、具体的な改善対応が取りにくい事業活動では無いでしょうか。一方で株主に対する責任を果たす上で、多くの企業で自社株式の市場動向を放置せず積極的な対応意向である様にも思われ、「隔靴掻痒」の感が強いかと思います。


IR活動の評価尺度として株価動向は想像に易いですが、株式上場のメリットである資本調達手段の有効性維持の観点から、株価信頼性や売買流動性も考慮すべきであり、株式売買代金の動向がより良い尺度であると思われます。

以下では売買金額の月次変化を業界平均値と上場各社で比較し、この尺度に基づくIR活動の成果状況と課題感の広がりを見てゆきます。


図1は東京証券取引所の4月末全上場銘柄のうち、上場期間が1年超の3,737社につき、売買金額の月次変化率を33業種区分毎の平均値と比較し、業種平均値を上回った月数の分布を示します。計測期間は2022年10月から2023年3月までと、2023年10月から2024年3月までの各6ヶ月間としました。


月次売買金額変化が業種別平均を上回った企業別月数の分布は、計測期間6ヶ月に対し3ヶ月を中心とした分布だった。
月次売買金額変化が業種別平均を上回った企業別月数の分布

いずれの計測期間でも6ヶ月中3ヶ月が業種平均を上回った企業が最も多く、山なりの分布となりました。各社のIR活動の目標を考える場合でも、恐らく「他社並み」「市場並み」の成果を期待すると思われますので、3ヶ月を境に分布図の右側の企業は「勝ち組」、左側が「負け組」、という整理で良さそうです。やや「負け組」企業の方が多い理由は、各業種で「勝ち組」企業への資金集中で、売買金額が大きく伸び業種平均値を高く引き上げる結果、半数よりやや多い数の企業が「負け組」と判定される為です。


株式市況や投資家の投資選好性が時間の経過と共に変動する事から、ある時期の「負け組」が別な時期では「勝ち組」に転ずる事は多分に予想されます。上の二つの計測期間を跨いだ企業毎の判定結果を図2に示します。数値は社数を表し、横軸が2023年3月までの6ヶ月間、縦軸で2024年3月までの6ヶ月間での、月次売買金額の伸び率を業種平均と各企業で比較した結果です。


上の勝ち負け判定に従えば、図の青い編みかけ部に属する企業は、両期間で「勝ち組」だった企業で全体の44.5%を占めます。図中の白い編みかけ部は、「負け組」が「勝ち組」に転じた企業で全体の19.4%を占めます。一方図の緑色の編みかけ部は、「勝ち組」が「負け組」に転じた企業で全体の23.6%、更に赤い編みかけ部は両期間で「負け組」だった企業で全体の12.4%を占めます。


両計測期間を通じて業種平均を下回る売買代金となった企業、及び前計測期間に比べ業種平均を上回る月数が減少した企業が多数存在する。
両計測期間での売買金額変化のたい業種平均比較結果

市場変動性を考慮すると3番目の企業群の発生はやむを得ないのですが、投資家の関心が高まり投資資金が流入するもその後の売買代金減少により、一時的な投資資金流入に留まった点は残念な結果と言えます。更に4番目の企業群は、業種内での投資家資金の獲得競争において劣勢の定着が懸念されます。この二つの企業群を合わせた36.1%の企業では、株式売買資金の獲得において課題を抱える状況にあると考えて良さそうです。


この状況の重篤度を理解しやすくする為、製品やサービスの需要に例えれば、23.6%の企業は安定的な需要を確保・維持出来ず、12.4%の企業では継続的な需要縮小に直面している事になります。売上高の減少の様に直ちに企業に悪影響がある訳ではありませんが、株式資本調達の手段を維持する、あるいは既存株主にとっての投資メリットの提供、という観点で満足出来る結果とは言えません。

また「勝ち組」を維持出来た企業は一部に留まる事から、少なくない企業で「従来のやり方」の継続が有効な改善策である可能性は低く、「従来とは異なる」対応を講ずべき状況にある事も予想されます。

© 2020 Yusoku Advisor Godo Kaisha

bottom of page