協業では「生き馬の目を抜く」という言葉をお忘れなく

オープンイノベーションという名の下に、大手企業と新興企業による協業の取り組みが盛んに行われる様になりましたが、一つ気になるニュースを見かけました。

新興「大企業にマネされた」 協業で知財トラブル 日本経済新聞 2020年7月2日

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO61018640R00C20A7TJ2000?s=4

詳しくは上記をご覧頂きたいですが、大手企業との協業に伴い自社ノウハウ・技術の流出や、協業先による類似事業開始といったトラブルに見舞われる新興企業が相次いでいるそうです。予防策として知的財産権の保護の為の契約書等の整備を行うべき、という趣旨ですが、記事で取り上げられた企業も決して無防備だった訳では無さそうです。

知的財産権の保護となると、特許の取得がまず思い浮かびますが、果たして権利保護の手段としてどの程度有効なのでしょうか?




図1*は平成26年から5年間の、地方裁判所で争われた特許侵害訴訟の判決及び和解の内訳です。グラフ右側が判決結果、左側が和解結果を示しますが、原告(特許権者)の訴えが認められた(認容)割合と、和解で差し止めあるいは金銭支払いとなった割合の合計は43%だったとの事です。原告の訴えを棄却あるいは差止や金銭支払いを伴わない和解の割合が57%であった事を比較してみると、特許が「ノウハウや技術の保護」の盤石な防衛策との印象は持ちにくいのでは無いでしょうか。




また、図2**では、原告・被告の属性別の訴訟の勝率を示します。大企業が原告である場合の勝率が32%であった一方、中小企業が原告である場合の勝率は19%に留まったそうです。更に原告が中小企業で被告が大企業であった場合の原告の勝率は僅か7%程だったそうです。この調査では、原告敗訴要因として特許侵害が認められなかった割合が、大企業原告の場合で37%、中小企業原告の場合で62%と差がある事から、中小企業では訴訟前の戦略検討と証拠集めが行き届かない可能性を指摘しています。

特許裁判の勝率が資力次第であるなら、大企業対抗上の中小企業のノウハウ・技術防衛策としての特許制度は、ますます有効性が限定されそうです。




更に上の記事にも取り上げられた、公正取引委員会の調査結果によれば、図3***に示す様に、取引先による知的財産権侵害により、不利益を被るあるいは競争優位性を喪失する中小企業は少なからず存在する様です。取引先の優越的地位の濫用により、ノウハウや技術の開示を強要され、対価支払いも無く盗用、他社への漏洩、価格交渉力の低下、技術優位性を喪失した事例が多数存在する事を考慮すると、契約書のみならず、取引先の選択や自社が提供する商品・サービスの取捨選択など、事業の組み立て上の対応も必要と思われます。

新興企業を含めた中小企業においては、事業資源も営業上の選択肢も限られる中、大企業との協業に大きな期待を掛け勝ちである事は否めないと思います。一方で上に挙げた様なトラブルが少なからず発生している事もまた事実です。耳障りの良い言葉に惑わされる事なく、企業提携の本質を踏まえた慎重な対応による自衛を心がけたいものです。

出典:

*:特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁,平成26~30年)、知的財産高等裁判所

**:イノベーション創出に向けた侵害訴訟動向調査結果報告、内閣官房知的財産戦略推進事務局、平成27年3月

***:製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書、公正取引委員会、令和1年6月(H25.10-H30.9が調査対象期間、複数回答可)