企業評価の鏡としての市場


上場企業のIR活動の動機は、株式の取引活発化を通じた株式価値向上にある訳ですが、市場で株式を取引する投資家の視点では、情報開示を含めたIR活動は当然として、株式(企業)の選択は冷静に行っていると思われます。投資家の企業選定の視点を、株式の取引量の多寡と株式評価の高低により、垣間見る事が出来ます。


一例として、ヘルスケア関連の機器及びサービス*を扱う、東証1、2部、ジャスダック、マザーズ上場銘柄で、一定の条件**を満たす株式銘柄のデータを分析した結果が下に示した図です(図1)。分析対象企業株式を株価純資産倍率(PBR)と株式流動性について評価し、それぞれを縦横軸に取り作図すると共に、先の二指標の単純平均値を使い母集団を4象限に分類してあります。流動性の評価は、流動株式の時価総額が何日分の平均売買金額に相当するかにより行っています***。



  • 第一象限(図右上):高流動性かつ高PBR

  • 第二象限(図左上):低流動性かつ高PBR

  • 第三象限(図左下):低流動性かつ低PBR

  • 第四象限(図右下):高流動性かつ低PBR

各象限で企業業績指標の平均値を取り、象限毎に比較した図が下です(図2)。印象として株式市場は企業に対し業績に応じた評価と対応を行っている様です。


  • 高流動性かつ高PBR(青線):売上規模は最小ながら、売上成長率、営業利益率、ROE、ROA等指標が高く、低い配当利回りでも高い株価評価と売買頻度を獲得。

  • 低流動性かつ高PBR(橙線):売上規模と売上成長率が2番目に大きく、高い営業利益率、ROE、ROAを得ている。第一象限の「高流動性かつ高PBR」銘柄に比べ、株式流動性は0.35倍に留まるが、時価総額が9.5倍である点を考慮すると健闘の印象。

  • 低流動性かつ低PBR(黄線):売上規模と配当利回りは最大も、営業利益率は先の2象限より低く、売上成長率、ROE、ROAも低い水準に留まる。また第一象限の「高流動性かつ高PBR」銘柄に比べ、時価総額が1.5倍に対し株式流動性は0.2倍に留まる。

  • 高流動性かつ低PBR(灰線):売上高は3番目に、配当利回りは2番目に大きいが、売上成長率、営業利益率、ROE、ROA等指標、及び時価総額が最も低い銘柄群。




この様に市場は冷静に企業と銘柄を峻別している様です。この様な状況でIR活動を「投資家向け広報活動」と定義した場合、第三、第四象限の企業はIR活動の成果を得難く、情報開示活動以上の意義を見出し難いと思われます。

しかし「(市場を含め)投資家の評価収集活動」と定義し、自社と事業に対する外部評価情報として企業価値創出に取り組めば、将来的な市場評価獲得に繋がるとも考えられます。

取り組む姿勢は各社各様ですが、自らを省みる鏡を得た事も上場のメリットとして、活用する事が投資家の期待に応える事に繋がるのではないでしょうか。


データ出所:会社四季報

*:含まれる業種例:臨床検査、CRO、医薬品卸、調剤薬局、機器販売、検査薬、医療機器・器具、介護器具、介護サービス他。

**:時価総額20億円以上、22日平均売買代金が20百万円/日以上、少数特定者保有割合が80%未満の株式銘柄。

***:少数特定者保有株式以外を流動株式と仮定し、流動株式の時価総額を22日平均売買金額で除する事で日数を計算。日数の小さい方が流動性が高いと評価。