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ホームセンター事業各社比較

先日プライム市場に上場する、ホームセンター企業の投資家説明を聞く機会がありました。会社としては特にアピールポイントを決めず、全般的な事業の紹介と中期経営計画の目標達成に向けた取り組みを紹介する趣旨だった様です。M&AやPB強化、海外展開、新規店舗開設、物流効率化など、盛りだくさんの施策が示されました。それぞれに有意義な取り組みかと思いましたが、もう少し鳥瞰的な理解を得るべく、有価証券報告書に基づく同業比較により、表面的ながら思う所を述べたいと思います。


ハイレベルな事業の理解の為、図1では直近2決算期につき、総資産額と利益額の分布を示します。複数事業を手掛ける企業(アークランズ、綿半)では、ホームセンター事業セグメント情報を抜き出してあります。また縦軸の営業利益は、支払い利息を差し引いた値を用いて、在庫増加による金利費用を考慮しています。

資産規模と利益額の間には強い相関があり、近似式では決定係数R2は86%近い値を示します。また近似式から、近似線の傾き(=総資産に対する利益率の傾向値)は、0.0525(=5.25%)である事が分かります。当事業は大規模な資本投資を伴い、規模の大小を問わず5.25%の投資利回りが期待される様です。


ホームセンター上場企業の直近2決算期での比較。事業成長は資本投下を伴い、総資産に対し5.25%の平均利回りとなった。
総資産生産性の比較

上記を踏まえ、各社の総資産利回りを図2に示します。直近決算期の実績では、利回りが上記の5.25%を上回る企業は、オレンジ色の棒グラフで示す3社に留まります。緑色で示された企業では、資産利回りの向上が課題であり、収支改善に向けたPB商品強化や業務効率化、あるいは在庫圧縮や店舗再編等による資産回転率の向上が必要でしょう。


ホームセンター上場企業の直近決算期での業績比較。近似線が示唆する平均的な利回り期待値を上回る企業は10社中3社。
総資産利回りの比較

図1では資本投下を要す事業である事を示しましたが、一方で図2にある様に資産を効率的に運用する事業運営スキルも必要な様です。図3では、総資産及び利益を全従業員数で割った数値を縦横の軸に取り、各社をプロットしたものです。図1同様に近似線に沿って各社プロットが並びますが、図1より近似線からの距離にばらつきが大きい事が分かります。

これは、資本配賦と人員運用の両側面で各社間の能力差がある事を示します。

近似線より右上にプロットされる企業では、店舗開廃や在庫方針など適切な資産運用を行うと共に、高い人員生産性を獲得する店舗運営の能力を有する様です。


従業員当りの資産生産性は、より近似線からの距離がばらつき、資本の投下方針、事業の運営の上で、各社間の能力差がある事がわかる。
従業員当りの総資産額と生産性の比較

小売業では競争環境の変化等により、業績成長の為には継続的な資本投下が必要ですが、図4では各社の追加投資能力の差異の存在を示します。縦軸では借入金と純資産の合計額(投下資本)と運転資金を含む営業資産額の比率を示し、縦軸を上に行くほど手元投資資金を有します。(仕入れ債務以外の負債が多い企業は縦軸値が100%を超えます。)横軸は保有現金額控除後の金融負債額とEBITDA(減価償却、利払い、税前営業利益)との比を示し、横軸を右に行くほど借入金の調達が容易である事を示します。

図の左下にある企業は追加投資余力で競争劣位となり、成長性が懸念されます。


ホームセンター上場企業間の手元現金の多さ及び追加借入の容易さを比較
追加投資余力の比較

こうした企業では、資本投下を抑えた成長策や、資本生産性の向上による手元資金状況の改善策を打ち出す事が、投資家の期待に応える事となります。「現状」は望ましい状態で無くとも、経営陣が現状を客観視した上で必要な対策を打ち出し、改善期待を形成する事は有効な投資家アピールと思われます。競争劣位にある企業では、弱点の打開策を打ち出す積極性が特に求められるのでは無いでしょうか。

© 2020 Yusoku Advisor Godo Kaisha

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