前回に引き続き今回も、東証グロース市場に注目し、上場企業の投資家獲得に向けた努力の様子を伺ってゆきたいと思います。日本の証券市場に3,943社*もの上場銘柄が存在し、新興企業の多くが属するグロース市場にも581社*が上場します。投資家に認知頂き、評価を経て投資を勧誘したい企業としては、自社発の情報発信に加え、外部機関による専門性の高い分析を伴ったリサーチレポートへの期待は無理からぬ事でしょう。(*:日本取引所グループ。4月16日現在。)
金融機関が発行する「セルサイドレポート」は、金融機関自身が事業機会見合いで作成発行を判断する為、時価総額や売買高の小規模な新興企業では希望薄ですが、上場企業自身で費用負担し調査会社に依頼作成させる「スポンサードリサーチレポート」も存在し、新興企業の多くが、スポンサードリサーチレポートを作成します。網羅的な統計情報は無い様ですが、手元で確認した範囲では、過去1年間に219銘柄に対しレポートが発行され、うち114銘柄は3ヶ月以内に発行されたレポートの存在を確認しました。(リサーチ会社11社のホームページにて確認可能範囲。2024年4月11日まで。)
図1では上場1年以上の企業を対象に、スポンサードリサーチレポートの発行有無を、時価総額区分毎の企業数の棒グラフで、また発行有無の比率を示すカバー率と、累積時価総額のグロース市場時価総額比を折線グラフで表します。分析銘柄総数は504で、うち109銘柄からレポートが発行され、それらの時価総額の範囲が広い事が分かります。前回のブログでは、時価総額と売買金額が上位企業に集中する点を指摘しましたが、レポートを発行する企業の期待を他所に、多くのレポートが有効に活用されない事が危惧されます。
仮にこれらレポートが投資家の行動変化に繋がるのであれば、レポート発行企業の株式は、無発行企業に比べより活発に取引が行われると考えられます。図2ではスポンサードリサーチレポートの発行有無により、2024年3月の売買回転数区分毎の銘柄毎の分布を示します。なお、同期間のグロース市場全体の平均値は0.29回/月でした。
グラフ左側の緑色の範囲が同平均値を超え最も活発に売買される銘柄区分ですが、同区分の銘柄割合は、レポートの有無に依らず概ね同じになりました。売買が活発な銘柄はレポート有無に依らず選ばれる様です。
一方市場平均を下回る活発度を示す、青色の範囲及びその右側の区分では、レポートが有る企業群で売買回転数の高い銘柄が多い傾向が見られます。レポートが有る事で、企業の高い投資家獲得意欲を表し投資家を引き寄せた可能性はありますが、市場平均に比べ1/2から1/3以下の相当低い売買回転数しか得られず、企業の期待に応える成果とは言い難いでしょう。
上場企業が能動的に取り組み易い手段故の結果と思われますが、多くの企業で自社にとってのスポンサードリサーチレポートの有効性や使い方に再考余地がありそうです。